作品目録
簡素な透明性に満ち、エネルギッシュで崇高な内容を持つ西澤の作品は、
まず第一に人間であることに感動する側に立って語り掛ける音楽を味わうという喜びを、
われわれに取り戻してくれる。
〜メキシコ・シナロワ新聞2001年10月27日
習作を除く、今までに作曲した作品の一覧です。
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2003年
第1楽章:Preludio
第2楽章:Fuga
第3楽章:Adagio
第4楽章:Allegro
委嘱:大谷定広(Guit) 初演:2004.11 東京・岩崎慎一(Guit)
出版:2004.11(株)ホマドリーム ISBN4-902699-33-8
「無伴奏チェロソナタ」「無伴奏ヴァイオリンソナタ」などと同じく、2002年から2003年にかけて書かれた一連の「擬似バッハ」的な作品群の中核をなす一曲である。無論、これらの作品の目的は単にバッハを模倣することなどではない。私はそれまでの作品に於いて、現代音楽的な枷の中へロマンティックな精神を投入しようと試みていたが、ここではそういった一切の文学的主題を音楽に持ち込むことを止め、現代に生きる自分の感性をもって、奇を衒わずスタイルを古典的なものに限定することで却って大胆で過激な創作精神を導き出そうと試みた。これらの作品群は「現代音楽とは何か」との問いへの私なりの答えでもある。
丁度そのような音楽的立場に立とうとしていた時分に、私は大谷定広氏から独奏作品の委嘱を受けた。どんなにシンプルな小品でも細やかに対位法的処理を施していく彼の演奏スタイルに前々からいたく感心していた私は、安心して自分の信念を彼に託す事が出来た。第一楽章は付点音符のリズムが特徴的なソナタ形式の前奏曲。第二楽章は厳格に作られたフーガ。第三楽章は穏やかな緩徐楽章。第四楽章は大規模な舞曲であるが、最後にコーダで全ての楽想がささやかに回想され、静かに纏められる。(2004/11西澤健一ギター作品展)
[楽譜サンプル]
第1楽章:Toccata
第2楽章:Adagio
第3楽章:Fuga
委嘱:秋田ホルンクラブ 初演:2003.5 秋田・委嘱者
バッハの同名のオルガン曲(BWV564)に基礎を求め、スタイルを踏襲した。第1楽章は2群のホルン4重奏と
ペダル役を演じるテューバによって協奏的かつ即興的に音楽が進められる。第2楽章は短調に転じてテューバ
を含む後方の5重奏によるコラールを背景に、前方4人の奏者が2声のレチタティーヴォを交互に歌いあう。
第3楽章は再び第1楽章の編成に戻り、厳格で快活なフーガとなる。(2006/02)
[楽譜サンプル]
第1楽章:Allegro
第2楽章:Andante
第3楽章:Menuet I/II
第4楽章:Gigue
委嘱:坪川真理子(Guit) 初演:2003.6 東京・阪田宏彰(Vc)、委嘱者
坪川真理子氏の委嘱で作曲。バロックの手法を踏襲し、バッハの素材を流用しつつも、
現代の時代精神を反映できないものだろうか、との試みが続く。第1楽章はインヴェ
ンション的で快活な前奏曲。第2楽章は緩徐楽章。第3楽章はメヌエット。第4楽章
はジーグ。楽器編成にも起因するのか、幾分ラテン的な歌いまわしに支配されている。(2006/02)
[楽譜サンプル]
第1楽章:Adagio
第2楽章:Allegro
第3楽章:Chaconne
第4楽章:Gavotte
委嘱:三戸素子・石川素美(Vn) 初演:2003.9 東京・三戸素子(Vn)
(前略)この曲のクライマックスは第3楽章に配置されたシャコンヌである。大胆にもあのヴァイオリン
音楽の金字塔であるバッハのパルティータ第2番の「シャコンヌ」と全く同じ構成、2拍目が強拍となる
シャコンヌのリズムから変奏の数、途中で短調から長調に変わるところまで寸分たがわずできている。
最初私はこの意図が全く気に入らなかった。(中略)。だが楽譜に向かい集中し、心を白紙にし、感性を
研ぎ澄まし、不慣れな和声進行を読み解いていくうちに、音と音との情熱的な関係がみえてきた。シャコ
ンヌという枠の中に込められた西澤のロマンティックな音楽が感じ取れてきた。途中の長調になるところ
では、数年前に「現代音楽の枷の中であえてシンプルな長3和音を置く勇気」といっていた彼が、ついに
その長3和音の美しい響きの中で自由に現代音楽を生み出すところに至ったのを感じた。(後略)
(記・三戸素子2003/09リサイタル)
[楽譜サンプル]
第1楽章:Andante con moto
第2楽章:Moderato meditativo
第3楽章:Allegro molto
委嘱:大萩康司(Guit) 初演:2004.11 東京・委嘱者
出版:2004.11(株)ホマドリーム ISBN4-902699-35-4
時間を演出するためにはどうしても時間が必要である。様々な楽想の配置を演出したいと望んでいるが
ゆえに、私は小品を書くことを好まなかったが、自分の我侭を一度は許してもらった以上、大萩氏にはい
つか小品集を提供したいと望んでいた。そこで、かねてより偏愛している中東の音楽の助けをほんの少
しだけ借りて、私はこの作品を耳に近しく響く小品集として書いたつもりであったが、やはりそれなり
に重量のある作品となってしまい、融通の利かない自分の性格を少々恨めしく思っている。第一楽章は
弾き語りのウードから連想した自由な印象。第二楽章は感傷的で乾いた歌。第三楽章は螺旋状に対位法
が巡るジーグである。(2004/11西澤健一ギター作品展)
[楽譜サンプル]
第1楽章:Ouvertüre
第2楽章:Air
第3楽章:Gavotte
第4楽章:Bourrèe
第5楽章:Gigue
委嘱:小澤洋介(Vc),三戸素子(Vn) 初演:2003.10 小淵沢・委嘱者
いわゆる「序曲」と名付けられる組曲のスタイルを踏襲し、大規模なフランス風序曲に始まり、
アリアやガヴォットなど古典舞曲の形式に則って、自分に固有の響きと和声進行、そして時代精
神を調和させようと試みる。無伴奏チェロソナタ、無伴奏ヴァイオリンソナタで得た経験が収
斂し、誇大妄想な世界観は影を潜め、落ち着いたさりげなさが作品の精神を支配するようにな
る。(2006/02)
[楽譜サンプル]
第1楽章:Andante
第2楽章:Allegro
第3楽章:Presto
委嘱:岸田洋一 初演:2003.9 東京・トゥリステ・サクソフォン・アンサンブル
以後、私の創作において様々に連携を重ねる岸田氏との最初の仕事。現在は音域さえ合えばどの楽器でも
構わないとの指示を出しているが、本来は3本のアルト・サキソフォンのために作曲されている。第1楽
章は緩徐楽章。第2楽章は舞曲的なアレグロ。第3楽章は無窮動なフーガ。2オクターブ半の密集した音
域の中で対位法の線が縦横無尽に絡み合う小品である。(2006/02)
[楽譜サンプル]
第1楽章:Allegro
第2楽章:主題と変奏 Andante
第3楽章:Tempo di menuett
委嘱:波多江史朗(Sax)
波多江史朗氏の委嘱で作曲。素材も楽譜もモーツァルトのスタイルを踏襲するが、似ても似つか
ない響きがする作品。私が書いたうちで最もエキセントリックな作品のひとつと言っても差し支
えない。第1楽章は、ほとんど高い音域でとどまって演奏されるアレグロ。第2楽章はグロテス
クな変奏曲。第3楽章はいびつなメヌエット。どの楽章も誇大妄想かつ、意地悪でわざとらしい
精神が支配する。(2006/02)
[楽譜サンプル]
2004年
第1楽章:Allemande
第2楽章:Courante
第3楽章:Sarabande (attacca:)
第4楽章:Double
第5楽章:Menuet
第6楽章:Passepied I/II
第7楽章:Gigue
委嘱:大萩康司(Guit)
大萩康司氏の委嘱で作曲。この作品で無伴奏チェロソナタより続いた「擬似バッハ」的な作品の、
とりあえずの総決算となる。バッハの「フランス組曲」、「イギリス組曲」のスタイルを踏襲し、
中心となるアルマンド、クーラント、サラバンド(とドゥーブル)、ジーグのほかに、メヌエット
とパスピエが追加され、古典舞曲の形式に則った由緒正しい組曲として構成している。これらの作
品群を書いて私が得た教訓は、結局作品というものは、スタイル如何に関わらず、その作品を書い
た人間のその時代とその場所の精神からは決して無縁ではいられないということである。(2006/02)
[楽譜サンプル]
第1楽章:『枯芝』 枯芝や骨見せてをる乳母車
第2楽章:『桃散る』 桃散りて国遠ざかる海路かな
第3楽章:『蟻』 蟻臺上に餓ゑて月高し
第4楽章:『茱萸』 葉洩れ日に茱萸透し見て眠んと思ふ
委嘱:大谷定広(Guit) 初演:2004.スペイン 委嘱者
バッハ的なスタイルを用いた試みに対して、納得できる一応の成果と結末を得たことで、
しばらくは音楽史的な興味や自分自身の問題意識を離れ、素直でロマンティックな精神
でもって作品を書く時期が続く。大谷定広氏より委嘱を受けて作曲したこの作品は、あ
らかじめ委嘱者によって「俳句」をテーマとして与えられていたのだが、そこで、かね
てより愛読している横光利一の、あまり一般的に有名ではない俳句作品を題材に純粋な
標題音楽として構成した。この作品のクライマックスは台の上で飢える「蟻」であろう。
…しかし、俳句と言われて横光利一を選ぶあたり、やはり僕はひねくれているようだ。(2006/02)
[楽譜サンプル]
第1楽章:Moderato/Allegro
第2楽章:Chanson:Adagio
第3楽章:Allegro non troppo
委嘱:金庸太(Guit) 初演:2004.11 東京・委嘱者
出版:2004.11(株)ホマドリーム ISBN4-902699-35-4
金庸太氏は私が最も長く付き合い、且つ信頼を寄せているギタリストである。「ソナタの第三番というと、
ギタリストはポンセの名前を思い出す」と言って、かねてより彼は第三番の番号が振られたソナタを手に
する事を熱望していたのだが、そのこともあって、私は作曲に取り掛かる前から半ば冗談でこの作品の副
題を「マヌエル・ポンセ讃」にしようと決めていたのである。
しかし、いざ作曲家としてポンセの楽譜に付き合ってみると、音楽に対する献身的な筆致にやはり共感せ
ざるを得ず、またギターを弾かない人間だからこそ理解できる不安によって省略された低音が楽譜から浮
かびあがるのを確かめた瞬間に、私のなかで却ってこの楽器に対する理解が深まってしまったのである。
楽器には、どんな楽器にもそれ自身固有の精神がある。この作品を作曲中に、ようやく私はギターと私自
身との調和が成就されたのを感じ、冗談も消えて、この作品がどうしてもポンセへの讃歌とならざるを得
ないのだということを悟った。
ポンセのソナタの暗喩とも言える楽想に満ち溢れている第一楽章。形式的だが予断を許さぬ逸脱に晒され
続ける第二楽章。そして、諧謔的な第三楽章では終盤にポンセの筆による最も有名な旋律が切れ切れに
引用されている。(後略)(2004/11西澤健一ギター作品展)
[楽譜サンプル]
第1楽章:Nicht zu schnell
第2楽章:Ruhig, aber immer fließend
第3楽章:Mäßig
第4楽章:Sehr langsam
第5楽章:Rasch
第6楽章:Langsam
第7楽章:Lebhaft
委嘱:佐藤美歌(Pno) 初演:2005.9東京・委嘱者
佐藤美歌氏の委嘱で作曲。同名のシューマン作品と同じ精神を持って作曲したと言われても私は否定しない。
ここで私は純粋に美しいと思えるピアノのための小品を作曲しようと思ったのみである。4声で粛々と進めら
れる第1楽章、方々に調が移ろう郷愁に満ちた第2楽章、農民舞曲的な第3楽章、暗く沈むような第4楽章、
急速で激しい第5楽章、5拍子の緩徐楽章である第6楽章。快活に開始する第7楽章は静かにさりげなく締
めくくられる。(2006/02)
[楽譜サンプル]
初演:2004.11 東京・大萩康司、岩崎慎一、金庸太(Guit)
2004年の11月にギター作品による作品展を開催したが、そのためのアンコール・ピースとして作曲
した小品である。頭拍の欠けたメヌエット。当日は第一ソナタを弾いた大萩氏、第二ソナタを弾いた
岩崎氏、第三ソナタを弾いた金氏にそれぞれパートを割り振った。そのため、第3ギターだけスコル
ダトゥーラしているという事情もあったりする。(2006/02)
[楽譜サンプル]
第1楽章:Allegro moderato
第2楽章:Andante
第3楽章:Scherzando
委嘱:日本ギター合奏連盟 初演:2004.10練馬・アンサンブルOZ、西澤健一(指揮)
第16回日本ギター合奏フェスティバルの委嘱により作曲。通常のギターではなく、アルト・ギター
からコントラバス・ギター、ギタロンに至る合奏用ギターのために作曲した。曲はゆるやかな曲線を
描く第1楽章、緩徐楽章である第2楽章、スペイン風といっても差し支えない第3楽章からなってい
る。…この作品の第3楽章はギタロンには向かないと言われ、当日の演奏ではギタロンが削除されたが、
楽器の構造上、どう考えても演奏は可能なはずだと私は考えている。(2006/02)
[楽譜サンプル]
第1楽章:Moderato - Allegro
第2楽章:Adagio molto
第3楽章:Allegro non troppo
初演:2005.9東京・西澤健一(Pno)
「ピアノ三重奏曲第三番(作品30)」以降、特に、私は作風を、現代音楽の常識内で素直に感性を発露
させていくような種類の音楽から、対位法やフーガなどの古典的な技法を用いた整然とした音楽へと意
図的に変化させた。先ほど引用したラヴェルの言葉の続きはこうである。つまり、「…あなたに真の才
能があれば、そのなかでおのずと自分の言葉が語られるものです。」
ここで自分の変遷について詳細に語るのはあまりにも長くなるので割愛する。ただここでは、作品
に思惟を張り巡らして耳自身の思考を連動させるためには、誰の耳にも明らかで、安定し確立した形式
と音響とがどうしても必要であったという私の結論を言うに留め、あとは黙ってこの作品を提供するこ
とにしよう。
この作品は本公演のために書き下ろしたものある。予想通り、というより意図的になのだが、まさ
しく私はこの作品で我欲のみを追及している。第一楽章は僅かばかりの主題によって構築された、簡潔
ではあるが、わざとらしく誇大妄想を地で行くフーガ。第二楽章のような減七の和音の連続は却って現
代における禁則として響く。第三楽章のロンドでは、ようやく懐かしいアルベルティ・バスが解禁され
るが、典型的な伴奏音型の甲斐虚しく音楽はふらふらと目的もなくさまよった挙句、何事もなかったか
のように唐突にお開きとなる。…この作品の最後で聴こえるものは、予定調和的な調性音楽であろう
か、それとも私の才能の無さであろうか。私は手薬煉を引いて答えを待ち受けたいと思う。(2005/09
西澤健一ピアノ作品展)
[楽譜サンプル]
第1曲:ハ長調
第2曲:ハ短調
第3曲:ニ長調
第4曲:ニ短調
第5曲:変ホ長調
第6曲:ホ長調
第7曲:ホ短調
第8曲:ヘ長調
第9曲:ヘ短調
第10曲:ト長調
第11曲:ト短調
第12曲:イ長調
第13曲:イ短調
第14曲:変ロ長調
第15曲:ロ短調 (Passacaglia)
委嘱:岸田洋一
岸田洋一氏の委嘱で作曲。バッハのインヴェンションと同じ順序で曲が並ぶ練習曲であるが、
いくつかはバッハのスタイルを踏襲しているものの、必ずしも全てではない。様々な演奏技術
と素材とをテーマとした14の練習曲の最後には、全ての練習曲より素材を抽出した厳格なパ
ッサカリアが用意されている。つまり、練習曲全曲を真面目に勉強すれば最終的にはこのパッ
サカリアが吹けるようになる、という塩梅である。ダイナミクスの類は楽譜に一切記していない
。パッサカリアを単独で演奏することも可能である。(2006/02)
[楽譜サンプル]